税理士は再び食える資格になった!?この数年で税理士に何が起こったのか?【転職・キャリア編】

 

みなさんこんにちは、株式会社ワイズアライアンス・代表の手塚です。

当社は、会計業界に特化をした人材紹介(転職エージェント)やWEBサイトの運営を行っています。

さて、「税理士は再び食える資格になった」というと大げさですが、今日は、転職市場において「税理士の市場価値が再び上がってきている」ということについて書こうと思います。タイトルは少々煽って大げさに書いてしまいました。(すいません…)

若手の税理士や税理士受験生が減っている

一時期、「税理士は食えない」という話題が世間を賑わせました。

最近だと「税理士の仕事はAI(人工知能)に奪われてなくなる」というのが流行りですね。

そして、そういった情報を受けてか税理士試験の受験生も大きく減少しています。具体的な数字は下記の記事をご参考ください。当社が運営するサイト「会計事務所求人名鑑」に掲載した昨年夏の税理士試験についての考察記事です。

税理士になるためには、税理士試験11科目のうち、5科目を取得する必要がありますが、そのうちの初学者(初めて税理士試験にチャレンジする人たち)が受験する傾向にある「簿記論」と「財務諸表論」の2科目の受験者数が大きく減少していることから、「新規に税理士を目指す人」や「若手の税理士志望者」が減っていることが読み取れます。

また、受験生の減少とともに合格者数も減少しています。30歳以下の官報合格者数(税理士になるために必要な5つの科目に合格した人)は2016年ではわずか176名です。

進む会計事務所の大型化と採用ニーズの高まり

受験生や合格者数が減少する一方で、会計事務所の採用ニーズは高まっています。

会計事務所業界は平成13年の税理士法改正で税理士法人の設立が認められて以来、大型化が進みつつありますが、この数年で大手や準大手会計事務所のさらなる大型化が進んでいます。

具体的には、最大手である辻・本郷税理士法人の従業員数は1,000名を超え、つい数年前まで従業員100名弱の規模であった税理士法人平成会計社税理士法人AGS東京共同会計事務所といった準大手・中堅税理士法人が100〜300名超の規模へと成長し、次のステージとして300〜500名を超える規模を目指そうとしています。

従業員数を目安とすると、数年前までの業界は、

  • BIG4税理士法人(従業員数:500~600名程度)
  • 辻・本郷・税理士法人や税理士法人山田&パートナーズなどの独立系大手会計事務所(従業員数:数百名規模)
  • 準大手・中堅税理士法人(従業員数:数十名から100名程度)
  • その他、中小・個人会計事務所(従業員数:数人~20、30名程度)

という構造だったのですが、100名以上の準大手・中堅会計事務所が増え、その構造が変わってきているのです。

従業員数だけで言えば、数年以内にBIG4税理士法人と同等まで規模を拡大する準大手・中堅会計事務所が出てくる可能性もあるかもしれません。

また、さらに新勢力として、税理士法人チェスター汐留パートナーズ税理士法人など成長著しい新興の会計事務所も精力的に人材採用を拡大し、既に100名近い規模となってきています。彼らも引き続き規模をさらに拡大していくでしょう。

この会計事務所の規模拡大に伴い、また、ここ数年のアベノミクスによる好景気の恩恵も受けて、中堅以上の会計事務所1社あたりが採用する人員数も増え、中には年に数十人の採用を計画する会計事務所も出てきています。

高まる20代・30代若手人材の市場価値

こういった受験生の減少会計事務所の大型化や好景気による求人数の増加が同時に進むことによって何が起きているかというと、今、会計事務所が若手人材を採用できなくなっているのです。

前述の通り、若手の税理士受験生が大きく減っていることから、採用対象となる候補者が少なくなっています。

一方で、会計事務所側の人材ニーズは高まっており、求人数は増えています。

そのため、会計事務所が少ない受験生や若手人材をとりあう構図になってしまっているのです。

皮肉なことに、税理士が食えなくなったと聞いて受験者数が減ったことにより、逆に、残った受験者や新たにチャレンジした受験者の価値が相対的に上がることとなっていると言えます。

このため、会計事務所業界での若手人材の就職・転職活動も行いやすくなっています。

具体的には、

  • 30代前半くらいまでの税理士科目合格者(税理士受験生)
  • 30代半ばくらいまでの税理士

に採用ニーズが集中しており、そういった人材にとっては就職・転職活動を行いやすい環境となっています。

会計事務所の就職・転職状況はどう変わったのか?

こういった傾向によって、会計事務所の人材マーケットでは大きくふたつの変化が起きています。

ひとつめは、前項と重複しますが、就職先の会計事務所を選びやすくなったという点です。

例えば、かつては、「税理士有資格者」や「税理士科目3~4科目以上の合格者」しか採用しなかった中堅以上の会計事務所が、「2科目以上の合格者」や時には「会計実務未経験の人材」まで採用対象とすることもあります。経験の浅い若手人材でも入社しやすい中堅以上の会計事務所も増えているわけです。

会計事務所業界はほんの10年前まで丁稚奉公の世界でした。

税理士受験生は、税理士科目1〜2科目に受かるとその多くは町の零細会計事務所に丁稚奉公し、コツコツと経験と資格を積み上げて行かねばならず、将来に不安を感じる状況であったのが、組織としてある程度しっかりした会計事務所からキャリアをスタートできる可能性も高くなってきました。

また、そこまででなくても、複数の小規模会計事務所の中から良さそうな就職先を選びやすくもなってきました。これにより、仮に途中で税理士の取得を諦めたり、事業会社の経理職への転職を希望するようになった場合でも、評価される経歴やスキルを身に付けやすい会計事務所を選べる業界となりつつあります。

また、採用側(会計事務所)は良い人材を採る努力をしなければならなくなったという点がふたつめの変化として挙げられます。

当社には日々、様々な会計事務所からの相談や求人の依頼が寄せられますが、昨今の人材不足や社会情勢の変化を受けて、「残業時間を減らす方向で取り組んでいる」「産休・育休の制度を導入した」「IT化・効率化を推進している」というような話題が増えてきました。

また、若い会計事務所の中には、古い慣例や業界の常識にとらわれず「組織(企業)としてあたり前の制度」を導入し、一般企業と同じ、または、それ以上の働きやすさを追求する会計事務所も出てきています。

これによって、会計事務所間における採用力や人材活用力の差はさらに広がりつつあると言えます。

では、若い人はどんどん税理士を目指すのが良いのか?今後の動向は?

と言うわけで、若い受験生の方で「このまま税理士を目指すべきか」「会計事務所業界は大丈夫だろうか?」と迷っておられる方には、必ずしも将来を悲観する状況ではないと言えます。

少なくとも20代~30代前半くらいであれば転職もしやすいと言えますし、中期的にも、平均年齢が60歳を超える税理士業界は、この先数年後で高齢世代が大量に引退しますので、若手世代にチャンスが回ってくるでしょう。

一方で、中長期的には意識しておくべきこともたくさんあります。

人材の需給バランスはポジティブであるものの、クラウド会計ソフトに代表されるテクノロジーの進化などによって会計事務所の業界構造は確実に変わりつつあります。

事務作業は減り、高度・知的生産性や創造性の必要とする仕事が中心となります。

少なくとも「人と接するのが苦手だから会計を選んだ」という人には向かない業界になってくと考えられます。(逆に、経営に興味がある、数字や税法をさらに応用した仕事をしたい、という人にはより面白みのある業界になるでしょう。)

また、日本全体の景気としては2020年の東京オリンピックはターニングポイントになる可能性も高いでしょう。オリンピックまでは好景気が続く可能性は高いですが、オリンピック後の日本経済の牽引材料は現在のところ見当たりませんので、その後の転職マーケットがどうなっていくかもキャリアを考える上で注意が必要です。

税理士を目指していくに当たっては、中長期的にはこういった点も考慮してキャリア形成を行っていく必要があります。その点に関してはまた別の機会に書かせて貰います。(また、「転職ではなく独立はどうなの?」という話もあると思いますが、そちらに関してはまた後日。)

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【手塚佳彦/株式会社ワイズアライアンス代表取締役CEO】 神戸大学卒業後、会計・税務・ファイナンス分野に特化した転職エージェントにて約10年勤務。東京、大阪、名古屋の3拠点にて人材紹介・転職支援、支社起ち上げ、事業企画等に従事。その後、グローバルネットワークに加盟するアドバイザリーファームにてWEB事業開発、採用・人材戦略を担当するなど、会計・税務・ファイナンス業界に精通。また、株式会社MisocaのアドバイザーとしてMisoca経営陣を創業期から支え、弥生へのEXITを支援するなどスタートアップ業界にも造詣が深い。 2013年10月、株式会社ワイズアライアンス設立、代表取締役CEO(Chief Executive Officer)就任、公認会計士ナビ編集長。

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