経理職がキャリアアップや転職で意識すべき5つのポイント

経理部の人々

当社は経理、財務、税務と言った会計領域を専門とした転職エージェント事業会計系WEBメディアの運営を行っていますが、今回は、キャリア相談の際に質問の多い経理職の転職やキャリアアップのポイントについて解説してみようと思います。

今回取り上げるのは、転職に限らず、社内の異動や配置・担当替えも含めて、経理職がどのような点を意識してキャリアを積んでいけば市場価値が高くなるのかについてです。ですので、転職を考えている人はもちろん、転職は考えてないけど市場価値は高めておきたい人も参考にしてもらえればと思います。

1:主計、管理会計、財務、税務、、、どの経験を重視したらよいのか?

skill ロゴ

経理には主計(決算)、管理会計、財務、税務など様々なジャンルがありますが、どの経験を重視したらよいでしょうか?

経理のキャリアアップの基本としては、まずは主計の経験を固め、その後、管理会計、財務、税務などに幅を広げていくのが効果的です。

経験を広げていく優先順位の目安は、

主計 > 財務or管理会計 > 税務

の順になります。

この理由としては、転職市場では主計(決算担当)の求人が圧倒的に多いため、主計を優先的に経験しておくと応募できる求人の数が多くなります。その上で、財務や管理会計、税務などに経験を広げて強みを作るのがよいと言えます。

なお、ここでは税務の優先順位が低くなっていますが、税務の知識を疎かにして良いというのではありません。主計を行うには当然、税務知識が必須ですので、税務知識は経理において非常に重要です。

ただ、税務はしっかりとマスターするには時間がかかること、毎年の改正があるため知識が劣化しやすいこと、また、税務業務を社内完結している(税務申告書も社内で作成している)企業の求人はそれほど多くないこと、などを考慮すると、税務申告書を作成できるレベルまで税務スキルを本格的に高めるのは後回しでも良いというニュアンスです。

逆に、会計事務所出身の方など、税務キャリアからスタートしている方は、税務の次に主計の経験を積みつつ、財務や管理会計へと経験を広げていくと良いでしょう。

 2:大企業と中小・ベンチャー企業での経験、どちらがよい?

迷うビジネスマン

経理職に限らずですが、大規模企業と中小規模の企業やベンチャー企業のいずれがキャリアアップによいのかというのはよく話題となります。

これに関しては、明確な答えはなく、それぞれに良し悪しがあります。

まず、大企業に関しては、企業自体が安定しているのが魅力です。(近年では必ずしもすべての企業がそうとも言えなくなってはいますが…)

また、企業会計基準やIFRS(国際財務報告基準)、USGAAP(米国会計基準)といった高度な会計処理に携われる可能性があるのも魅力として挙げられます。

ただし、大企業の経理・財務業務は分業化されているため、細切れの経験しか積んでいない場合は、いざ転職となった際に経験が評価されにくいケースもあります。そのため、大企業勤務の場合は、関連会社の経理と言った小規模企業の経理を経験するなど、なるべく幅広い業務に取り組むことを意識しておくことが大切です。

一方、中小企業やベンチャー企業に関しては、経理はもちろん、財務や管理会計など会社全体を見渡しながら幅広い経験が積める点が魅力となります。また、転職市場ではやはり中小企業やベンチャー企業の求人が大部分となりますので、中小・ベンチャー企業での経験がそのまま評価されやすいというメリットが有ります。

ただし、中小企業やベンチャー企業の場合、例えば、主計など単独の業務だけ見ると、連結決算や開示と言った専門性の高い業務が少ないケースが多いですので、財務や管理会計、場合によって経理だけでなく、労務、法務など管理業務全体の経験を積むなど積極的にキャリアの幅を広げておくことは重要となります。

3:主計、管理会計、財務、税務、それぞれのポイントは?

ミーティング中

経験面についてさらに落としこんでみましょう。主計、管理会計、財務、税務など、それぞれのキャリアアップのポイントはどこになるのでしょうか?

主計

主計に関しては、単体決算を基本に、開示書類作成、国内外連結決算へと広げていくことで評価が高まります。また、一般的な未上場企業の経理よりも、会社法上の大会社や企業会計基準の適用企業(上場企業など)での経験の方が評価は高くなります。

IFRSやUSGAAPについては、海外展開するグローバル企業や外資系企業で評価されますが、まずは日本の会計・税務を理解した上で、GAAP調整のスキルを身につけていくのが望ましいと言えます。

管理会計

管理会計に関しては、商品やサービスの種類が多いなど、事業構造が複雑な企業で経験を積んでいると評価も高くなる傾向があります。

管理会計のスキルは、「予算(未来・計画)」と「結果(過去)」の2側面からの分析と、「費用(コスト)」と「売上・利益」の2側面からの分析4側面があります。最終的にはこれら4側面すべてをカバーできることが望ましいため、この4側面を意識しながら経験を広げていくことが重要です。

また、分析を行うだけなく、分析⇒課題発見⇒提案・実行⇒改善⇒…と言ったPDCAサイクルを構築・運用した経験、予実の分析をしたり、計画を建てていく上での現場(営業・販売部門など)や経営陣とのコミュニケーション能力も重視されますので、年次を積むに連れて、数字の分析だけでなく折衝や交渉・調整経験まで積めるのがベストと言えます。

財務

財務に関しては、まずは資金管理や資金繰りからスタートし、その後、金融機関からの借入や社債の発行などのデットファイナンス、ベンチャーキャピタルなどからの調達といったエクイティファイナンスの経験に広げると良いでしょう。また、その際に金融機関や投資家との交渉や、それに付随する事業計画書の作成まで経験しておけるとベストです。

なお、デットファイナンスとエクイティファイナンスのいずれの経験が良いか?に関しては、エクイティファイナンスの経験があるほうが成長性の高い企業に転職しやすい可能性はありますが、日本の企業の多くはデットファイナンスが中心ですので、デットファイナンスを経験しておくほうが潰しは効きやすいとも言えます。

税務

税務に関しては、1で少し触れましたが、多くの企業では税務業務は会計事務所に委託していますので、顧問の会計事務所や税理士のアドバイスを受けながら決算業務を遂行するスキルがあればまずはOKです。その上で法人税や消費税などの税務申告書の作成ができれば尚可と言えます。

また、近年は、IT系企業や海外展開する企業が増加していることから、IT業界や海外取引に関する税制や税務処理などに精通しているとベターです。

4:取得しておくと有利な資格は?

資格

経理職というと資格取得のイメージも強いですが、取得しておくと良い資格についても触れておきます。

簿記

まず日商簿記2級の取得は必須と言っても過言ではないでしょう。きちんと勉強すれば取れる資格ですので評価が高いわけではないですが、経理職の基本として取得しておくべきと言えます。

次は日商簿記1級ですが、これは2級と比較すると非常にハードルが上がりますので、取得しておければベターと言った感じですが、取得できると評価は大きく高まります。

また、管理部門で幹部を目指すのであれば経営全般の知識が身につく中小企業診断士も良いでしょう。

税理士科目

税理士試験科目に関しては、あくまで全科目が揃って(税理士登録できる科目数を満たして)効果が最も大きくなるので、その点にはやや注意が必要ですが、個別の科目でも評価にはつながります。基礎的な部分をアピールするのであれば、簿記論や財務諸表論を取得するのが望ましいです。難易度は上がりますが、法人税法や消費税法を取得できると評価も大きくなります。

USCPAやBATIC

外資系企業やグローバル企業での経理職の場合は、BATIC(国際会計検定)やUSCPA(米国公認会計士)という選択肢があります。

似たようなふたつの資格ですが、BATICはレポーティングに関する資格であり、USCPAは米国会計基準に関する国際的資格であり、海外からも評価されますので、USCPAのほうが評価が高くおすすめと言えます。

TOEICなど英語力

なお、グローバル展開する企業や外資系企業への転職を希望する場合はTOEICを取得しておくと効果的です。TOEICの点数に関しては、最低ラインで700点以上、評価されるにはTOEIC800点以上を取得しておけば、十分です。

TOEICを取得していれば、ビジネスでの英語の利用経験は30歳くらいまではそれほど問われない傾向にあります。一方で、30代半ば以降など管理職ポジションとなってくると、TOEICだけでなく、ビジネスの現場での英語使用経験を問われるようになってきます。

5:その他、注意しておく点はありますか?

マネージャー

ここまで述べた4点以外には、「マネジメント経験」も重要となってきます。このマネジメント経験は、特に30代半ば以降で重視されるようになります。

マネジメント経験に関しては、役職者になって(管理職としての肩書きを得て)部下をマネジメントすることがベストですが、そうでなくとも経理は事務処理をスタッフに任せることが多い仕事ですので、後輩社員や派遣社員、パート・アルバイトのスタッフに業務を振分け、進捗管理や指導を行うといった経験もプラスになります。

以上が経理職がキャリアアップの際に意識すべき5つのポイントです。

全体をカバーしたため少し乱暴なまとめ方になってしまいましたので、実際は個々人の経験や希望によって考え方はもう少し異なってきますが、経理分野でのキャリアアップを考えている方は参考にして頂ければと思います。

なお、当社では経理や財務、税務関連に特化をした転職エージェントサービスを行っております。

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【手塚佳彦/株式会社ワイズアライアンス代表取締役CEO】 神戸大学卒業後、会計・税務・ファイナンス分野に特化した転職エージェントにて約10年勤務。東京、大阪、名古屋の3拠点にて人材紹介・転職支援、支社起ち上げ、事業企画等に従事。その後、グローバルネットワークに加盟するアドバイザリーファームにてWEB事業開発、採用・人材戦略を担当するなど、会計・税務・ファイナンス業界に精通。また、株式会社MisocaのアドバイザーとしてMisoca経営陣を創業期から支え、弥生へのEXITを支援するなどスタートアップ業界にも造詣が深い。 2013年10月、株式会社ワイズアライアンス設立、代表取締役CEO(Chief Executive Officer)就任、公認会計士ナビ編集長。

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